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「銃声なき抗争」分裂山口組繰り広げられる暗闘の真相(1)総本部「乗っ取り情報」

 国内最大の指定暴力団山口組(総本部・神戸市灘区、6代目組長・篠田建一=通称・司忍)から13団体が離脱して神戸山口組(組長・井上邦雄)を結成した分裂騒動から1カ月が経った9月ごろから、ある怪情報が警察当局や暴力団関係者の間を回り始めた。

 「神戸山口組が山口組総本部の乗っ取りを画策しているらしい」

 神戸山口組は、山口組の2次団体の最大勢力山健組組長の井上邦雄をはじめ、幹部13人が今年8月下旬、傘下団体の一部を引き連れて離脱し、結成した新たな暴力団。現在は山健組の事務所などを拠点にしており、総本部には分裂以来入っていない。

 暴力団関係者によると、怪情報には“法的根拠”があるという。山口組の総本部がある神戸市灘区篠原本町の土地は、「株式会社山輝」が所有している。

 「株式会社山輝」は、山口組の「直参」と呼ばれる2次団体幹部全員が株主となっており、神戸山口組に移った13人の幹部も株主という立場に変わりはない。株主という法的立場から「総本部の土地の一部の権利を主張できる」という理屈となっているという。

 「株主として、駐車場だけでも裁判所に対して所有権を主張して使用の差し止めを求めれば、総本部は使えなくなる」。ある暴力団関係者はそう指摘する。

 別の暴力団幹部は「今はドンパチ(拳銃を使った対立抗争事件)となれば、警察は徹底的につぶしに来る。下手にケンカできない。(株主の権利行使などの)こうした対抗措置を取ることも十分に考えられる。しかし、(ヤクザが)それで済むのか。裁判所に『この権利を認めてほしい』とお願いに上がるのか」とも指摘する。

 かつて山口組は4代目の跡目争いから25人が死亡、負傷者多数を出した史上最悪の対立抗争事件「山一抗争」(昭和59~平成元年)を引き起こした経緯がある。警察庁幹部は「偶発的であれ、抗争事件に巻き込まれた一般市民が巻き添えになることは絶対に許されない」と抗争事件の発生の未然防止、発生時には徹底的な取り締まりを全国の警察に指示している。

 相次ぐ暴力団対策法の改正による規制強化、組織犯罪処罰法などが新設されるなど、法律的な包囲網もあるなか、暴力団は安易に真骨頂である暴力に訴えられないのが実情となっているため、山口組神戸山口組の双方の執行部が傘下団体に自制を求めている。

■「シンボル」争い

 暴力団の力の源泉は暴力。さらに暴力を支える経済力、その上で暴力団業界の中での地位を支える正当性も必要だ。

 分裂から2カ月となろうとしたころ、山口組にかつて存在した老舗組織の名称の復活が話題になった。シンボルと呼ぶにふさわしい老舗看板の復活をめぐり、山口組神戸山口組の間で宣伝戦が展開されている。

 焦点の一つは、どちらが初代から続いている山口組の正当な後継者かだ。先に攻勢に出たのは山口組側だった。山口組は、4代目組長の竹中正久の弟、竹中武が設立した暴力団竹中組の2代目を山口組の2次団体の柴田会会長、安東美樹に継がせることを決めた。

 竹中組は、山一抗争を終結させた当時の山口組執行部に反発して離脱した組で、安東美樹は元組員だった。「『6代目は竹中組に反発された5代目と違い、4代目につながる正当性のある組だ』。そうアピールする狙いがあった」と捜査関係者は解説する。

 神戸山口組側も同様の動きを見せた。同じ名称の竹中組の名跡を神戸山口組側の組長に継承させた。

 山口組神戸山口組といった1次団体だけでなく、同じ名称の2次団体までも並立する状態だ。

■熾烈な引き抜き

 他にも暴力団を引退したはずの山健組の元幹部などが神戸側や6代目側に相次いで復帰。山口組側に残ったある2次団体傘下の組員が神戸山口組側に合流するなど、引き抜き合戦は止まる気配をみせない。

 こうした引き抜き合戦が熾烈を極めるなか、山口組側の2次団体である倉本組河内敏之組長が10月26日、大阪市内のマンションの室内で倒れているのが発見された。胸に拳銃で撃った痕があり、大坂府警は自殺したとみている。

 倉本組は奈良市に本拠地を置いているが、マンションは倉本組の傘下団体の事務所という。

 倉本組は山口組側に残ったが、内部には神戸山口組に移籍しようとするグループがあり、組長は対応を迫られていたという。こうした内部統制の問題をめぐり、組長は山口組を除籍される処分を受けていたという。

■2つの「山菱」

 山口組の代紋は、横長にデザインした「菱」型に山口組の「山」の文字を重ね合わせ、通称「山菱」と呼ばれている。

 離脱した神戸山口組は、山口組と同じ山菱の代紋を掲げる。警察幹部は「暴力団の世界で同じ代紋を掲げる組織の併存はありえない。統一されるか、一方が消えるか、どちらかしか道はない」と指摘する。

 しかし、ここ10年間をみると、暴力団分裂後の併存はむしろ常態化している。

 平成18年に後継争いをめぐって対立して九州北部では、指定暴力団道仁会(福岡県久留米市)から離脱したグループが九州誠道会(同県大牟田市、現浪川睦会)を結成。双方の間で対立抗争事件が発生し、多くの死傷者を出した。

 23年には、約2900人の構成員を抱え国内ナンバー3の勢力の指定暴力団稲川会の山梨県内に拠点を置く傘下団体から離脱した暴力団山梨侠友会との間で対立抗争が相次いで発生。24年にも指定暴力団松葉会を離脱した暴力団松葉会関根組も、いずれも併存している。

 分裂した組織間での対立抗争事件は、特定抗争指定暴力団への指定などで抗争は取りあえず沈静化している。

 分裂前の山口組は1都1道2府40県とほぼ全国に系列の2次団体、3次団体……と組織が根を張っている。警察庁が把握している勢力は平成26年末時点で、約1万300人。現段階では自重しているとはいえ、全国各地で山口組神戸山口組の双方の組織がにらみ合いを続けているのが実態だ。

 こうした現状について、警察幹部は、「お互いに不満、鬱憤がたまっているが、現在は冷戦。実態を言えば、ガソリンがばらまかれた状態だ」と指摘。「一度火花が散れば、一気に燃え広がる」と不穏な水面下の状態について解説している。(敬称略)

◇    ◇

 国内最大の指定暴力団山口組の分裂から2カ月が経過した。山口組に限らず、暴力団が分裂すれば、かつては派手な対立抗争事件に発展するケースが多かったが、今回は双方が静観の構えだ。水面下でどういった動きがあり、治安情勢にどんな影響を与えるのか、果たして収束するのか収束するのか。深層を探った。

  

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