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暴力団名門一家の凋落 海外旅行で治療費をだまし取るお寒い懐事情

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 暴力団組員一行の東南アジア旅行は、新手のシノギ(経済活動)だった。現地の病院で支払った治療費の一部を負担する官民の制度を悪用して現金をだまし取ったなどとして、指定暴力団住吉会の副会長を含む同会関係者ら9人が10~11月、詐欺容疑などで警視庁に相次いで逮捕、起訴された。海外の案件の審査が甘くなる点につけ込み、制度を悪用した構図だが、暴力団排除条例の影響で従来通りのシノギが成り立たなくなりつつある中、資金繰りに窮する暴力団側の「懐事情」も浮かび上がった。

 ■判読不能の「診断書」…病院の印鑑も偽造

 「これは、全く判読不能ですね」

 暴力団捜査を担当する警視庁組織犯罪対策4課の捜査員からタイ語や英語で書かれた「診断書」の翻訳を依頼された専門家は、一読するなりこう断言した。そこには食中毒を起こし、嘔吐(おうと)や吐血、腹痛などの症状で治療を受けたとする診断内容が示されているはずだった。

 診断書は住吉会副会長、並木実被告(68)=東京都板橋区=らが国民健康保険の「海外療養費」制度の申請書類として、それぞれ居住する自治体に提出したものだ。平成21年1月20~28日にタイ旅行に行き、食中毒で現地の病院に入院したという。

 同制度では海外旅行中に病気やけがで現地で治療を受けるなどした場合、治療費の保険負担分が払い戻される。申請には現地で発行された病院の領収書や医師の診断書が必要で、日本語訳も添付される。

 並木被告らはこの制度を活用し、同年4~6月、東京都や埼玉県内の5つの自治体から計約200万円の払戻金を受け取った。だが、その後、タイ語の文法に間違いが散見され、書類を作成したという担当医が存在せず、病院の印鑑も形状が違う「偽造品」だったことが判明。並木被告ら4人は今年11月、詐欺容疑で逮捕、起訴された。

 ■言葉の壁、財政難…「現地に電話せず」

 なぜ、このようなあからさまな不正がまかり通ったのか。

 「インターネットで病院が実在していることは確認したが、言葉の問題もあって現地に電話などをしていなかった」

 被害にあった都内の自治体の担当者は、こう打ち明ける。申請を受けた自治体側は通常、国内で治療を受けた場合の保険適用額を算出するなどして審査を進める。ただ、東南アジアなどの現地語を理解する職員はほとんどいない。

 このため、現地書類の日本語訳だけで申請内容を判断し、不自然な点がなければ療養費を支給しているのが現状だ。加えて、海外療養費制度を所管する厚生労働省は審査する自治体側に現地病院に対する事実確認を義務づけていない。

 こうした盲点につけ込んで海外療養費をだまし取る事件は、全国各地で相次いでいる。

 今年3~10月には、中国で病気になったと偽って療養費をだまし取った中国人の男女らが大阪府警に逮捕された。被害にあった堺市南区では、中国語を話せる職員を雇用するなどの対策に乗り出したが、多くの自治体は財政難のため、自前で翻訳のできる人材を確保する余裕はない。

 厚労省は自治体側が海外の現地の病院に電話で事実確認をする際、通訳業者の人件費の一部を支援するなどの対策に乗り出した。担当者は「これまでネックになってきた言葉の壁を解消し、適正な制度の運用の一助となれば」と話す。

 ■旅行保険も標的に…高額の治療費で発覚

 そもそも、並木被告らの犯行が露見したきっかけは、損害保険会社の「海外旅行傷害保険」の保険金をだまし取ろうとしたとして、並木被告の傘下団体の組長ら5人が10月に詐欺未遂容疑で逮捕、起訴されたことだった。

 5人の逮捕容疑は昨年11月、フィリピン旅行中に「病院で治療を受けた」などとうその話をし、損保会社から保険金約200万円をだまし取ろうとしたというもの。官民の違いはあれど、並木被告らの事件と構図は同じだ。

 海外療養費制度と同じく、海外旅行保険もチェック態勢の甘さを指摘する声がある。大手損保会社の担当者は「提出書類と報告内容を見て不自然な点がないかチェックしており、現地確認なども適正に行っている」と主張する。

 損保各社が加盟する「損害保険料率算出機構」によると、預かった保険料は約264億円に上るのに対し、支払われたのは約142億円にとどまっている。業界関係者は「収支としては黒字だが、損保会社によっては手間のかかる海外での調査を避け、簡単に済ますことも多い」と打ち明ける。

 捜査関係者も、逮捕、起訴された暴力団関係者の佐藤周一被告(56)=川崎市高津区=が「海外旅行の保険は審査が甘く、簡単にだませる」といって、ほかの4人を誘ったとみている。

 今回の場合、損保会社の担当者が、申請された医療費が数十万円と現地の水準からすると異常に高いことを不審に思ったことから不正が発覚したという。

 ■シノギ厳しく…「上納金払えず」「小遣いほしい」

 住吉会副会長である並木被告は同会の二次団体「土支田」の代表も務める。指定暴力団の中で山口組に次ぐ2番目の規模を誇る同会の傘下組織の中でも、100年以上の歴史がある「老舗」として知られる。

 もともとは博徒系組織だったが、昨年11月には並木被告の前のトップが覚醒(かくせい)剤密売に関与したとして逮捕され、除籍処分となるなど、近年は衰退傾向にあった。

 さらに、昨年10月に全国の都道府県で完全施行された暴力団排除条例などの影響で、みかじめ料の徴収などを拒否する飲食店が相次ぎ、資金難に陥っていたとみられる。

 捜査関係者によると、海外旅行保険の詐欺未遂容疑で逮捕、起訴された傘下組長の1人は「10万円もらえる約束でフィリピンに行った。シノギがきつく、毎月の上納金も払えなかった」などと供述。並木被告も「小遣いがほしかった」などと容疑を認めている。

 捜査関係者はあきれたようにつぶやいた。「仮にも名門といわれた土支田のトップがここまで落ちぶれるとは。よほどシノギが厳しくなっていたのだろう」

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