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精進の誓い「保つ!」と宣言…後藤組元組長、出家の背景は

 「武闘派」「経済ヤクザ」として知られ、指定暴力団山口組(神戸市)の2次団体だった「後藤組」(静岡県富士宮市)の後藤忠政(本名・忠正)元組長(66)が今月、神奈川県内の寺院で出家した。山口組から除籍処分を受けて約半年。後藤元組長の出家について「社会貢献したい心情から出た行動」との見方がある一方、捜査当局からは、ビル所有権の不正登記事件で被告の立場であることから「裁判を有利に進めるため」との冷めた指摘もある。後藤元組長に近い関係者や捜査当局への取材から“出家”の背景を追った。


■すずり石に込められた言葉の意味は…


 東京から車で約1時間半。点在する民家を抜けると、鬱蒼(うっそう)と茂る森の一角に、大きな3重の塔と大仏が姿を現した。

 民族派右翼の故・野村秋介氏が眠る菩提寺でもある神奈川県伊勢原市「浄発願寺(じょうほつがんじ)」。普段は訪れる人の少ないこの寺が、異様な雰囲気に包まれたのは4月8日のことだった。

 警視庁の捜査員によると、寺に通ずる赤い橋のたもとには、報道関係者や警視庁、神奈川、静岡各県警の捜査員ら約30人が待機した。中には指定暴力団稲川会系組員の姿もあったという。稲川会は神奈川を地盤としており、「偵察」していたとみられる。

 そんな中、午後1時半ごろ、1台の車が橋を渡り、寺の前に横付けされた。車から1人の男が降りて足早に寺の中へと入っていったという。このスーツ姿の男が、後藤組の後藤元組長だった。後藤元組長が出家するための「得度(とくど)式」が執り行われたのだ。

 得度式とは、師となる僧侶による断髪のほか、衣、袈裟(けさ)を授かるなど、正式に僧侶の仲間入りを果たすための儀式のことだ。

 式には近親者など約40人が来賓として招かれたのみで、中の様子はうかがい知ることができなかった。

 出席者の1人は、後藤元組長の様子について「凛(りん)とした表情、立派な所作だった。これから僧となる身としての覚悟がうかがえた」と話した。式の最後に僧侶が「今後、精進する誓いを保つか」と問うと、後藤元組長は高らかに「保つ!」と宣言したという。

 約1時間にわたる得度式の後で開催された直会(なおらい)の席上、後藤元組長から来賓者に「一隅を照らす」と刻印されたすずり石が配られた。

 来賓者によると、後藤元組長は自身の出家と、この言葉の意味について、こんな話をしたという。

 「簡単なことです。道端でおばあちゃん、おじいちゃんが、ふとしゃがみ込んだら『大丈夫?』と声をかける、手をさしのべることでしょう。これを最澄大師(さいちょうだいし)は『一隅を照らす、これすなわち国宝なり』とおっしゃいました。私もこれから国宝になりたい。みなさまも国宝になっていただきたい。心からそう思うのです」

 後藤元組長がこうした心境に至った背景には、何があったのだろうか。


■得度式を指揮した意外な人物…


 「よかったら、今度、得度式の総指揮をとっていただけないだろうか」

 静岡県内のボランティア団体代表の男性(45)のもとに、出家の意志を伝える後藤元組長から連絡があったのは、今年1月のことだった。後藤元組長はさらに「自分はただヤクザを引退した親分ではない。誤解は払拭(ふっしよく)できないかもしれないが…」と言い添えたという。

 警視庁の捜査関係者によれば、後藤元組長は、この約3カ月前にあたる平成20年10月、山口組幹部らの会合を欠席したにもかかわらず、自身の誕生日を祝うため、静岡県内で芸能人らとゴルフコンペに参加していたことが発覚。山口組はこうした行動などを問題視し、後藤元組長を除籍としたばかりだった。その直後、後藤組は2団体に分裂していた。

 後藤元組長が総指揮を依頼した団体代表は、故・野村秋介氏が平成5年に朝日新聞東京本社で自殺した際、遺書を託された人物。生前の野村氏と親交があった後藤元組長は、この出来事をきっかけに団体代表とも親交が始まり、年に数度は飲食をともにする間柄になっていた。

 団体代表は後藤元組長の突然の申し出に驚くことはなく、総指揮という大役を快諾した。引き受けた理由について「一般的にイメージされている『武闘派』という一面を知らないから」と話す。

 団体代表が驚かなかった理由-。それは、後藤元組長が以前から途上国支援など社会貢献活動に携わっていたことだという。「人生の最終ページの青写真として、昔から(出家を)考えていたのだろう」と団体代表。後藤元組長が出家したことは、そうしたボランティア活動に本腰を入れる意思表示の1つではないかとみている。

 後藤組山口組きっての武闘派として名をはせてきた。その象徴的な事件として、(1)4代目組長の座をめぐり分裂した山口組一和会(当時)が抗争を繰り広げていた昭和60年、神戸市内の一和会会長(同)の自宅に短銃を乱射しながらダンプカーで突入(2)系列組員が平成4年、映画「ミンボーの女」の内容に腹を立て、映画監督の故・伊丹十三氏を襲撃-などが挙げられる。

 しかし、団体代表と時事問題や政治談議に花を咲かせる後藤元組長は、こうした過激な事件を起こした「暴力団トップ」の姿とは全く結びつかないほど、温厚な語り口だという。

 「極道の世界に身を置いた以上、勝ち続けなくてはいけない。筋を曲げない信念もあったのでしょうが、事件で世間一般に生まれた武闘派という誇大妄想を、うまく利用したのではないか」

 団体代表の見方だ。


■出家したものの住み込みはせず…


 これに対し、警視庁は全く異なる見方をしている。ある警視庁幹部は「裁判を有利に進めるための作戦だろう」と分析する。

 後藤元組長は平成18年5月、ビル所有権の不正登記事件で逮捕され、電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪で起訴された。東京地裁は20年3月、後藤元組長に無罪を言い渡し、検察側が控訴。現在、東京高裁で公判が続いている。

 警視庁幹部は、後藤元組長がこの裁判で再び無罪を勝ち取るため、“ヤミ社会”から完全に足を洗ったことを印象付けるパフォーマンスだと指摘しているのだ。

 後藤元組長は出家により暴力団との関係を一切絶つとされる。浄発願寺の住職によると、出家した場合、住み込みで修行をする例と、自宅などで修行をする例があるが、後藤元組長は後者の道を選んだ。

 「『万が一、寺に何かあったらいけない』という配慮があった」(住職)というのが理由だという。

 このため、捜査当局は引き続き、後藤元組長の動向について警戒を続ける方針だ。

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